この記事の結論
2023年4月に施行された改正民法で、所有者不明土地管理命令など4つの制度が誕生しました。不動産会社自身が裁判所に申立て、管理人を通じて購入できます。対象は約410万ヘクタール(九州の面積超)の所有者不明土地。鑑定評価書という公的な根拠があれば、相場の5〜6割での取得が正当に成立します。期間は半年から1年、予納金50〜100万円と手続費用約15万円が目安です。
九州と同じ広さの土地が「持ち主不明」になっている
日本で何が起きているのか。まず3つの数字から始めます。
| 数字 | 意味 |
|---|---|
| 約900万戸 | 全国の空き家の数(総務省2023年住宅・土地統計調査) |
| 約410万ヘクタール | 持ち主不明の土地の合計面積(九州の面積約368万ヘクタールを上回る) |
| 年間160万人 対 70万人 | これから10〜20年、毎年約160万人が亡くなり、約70万人しか生まれない |
総務省の2023年住宅・土地統計調査によると、全国の空き家は約900万戸(空き家率13.8%)で過去最多を更新しました。国土交通省の所有者不明土地問題研究会が2016年に公表した推計では、所有者不明土地は約410万ヘクタールで、九州の面積(約368万ヘクタール)を上回ります。全国の土地の20.3%です。
2024年4月には相続登記が義務化されましたが、それ以前の相続で放置された物件は膨大に残っています。この問題を受け止める仕組みを持っている会社はほとんどありません。
「持ち主のわからない家」が生まれる4ステップ
家には必ず持ち主がいたはずなのに、なぜわからなくなるのか。典型的な流れはこうです。
持ち主不明の家が生まれる4ステップ
数十年後、登記簿には亡くなった人の名前だけが残り、生きている持ち主に誰もたどり着けない家が完成する
- おじいさんが亡くなる。田舎の古い家は価値が低く、相続人は誰も欲しがらない
- 手続きが面倒なので、名義をおじいさんのままにして放置する
- やがて相続人も亡くなる。相続人の相続人は、その家の存在すら知らない
- 数十年後、登記簿には亡くなった人の名前だけが残り、生きている持ち主に誰もたどり着けない家が完成する
典型的な例を見てみましょう。昭和54年に相続でXさん名義になり、平成11年の相続で「持分3分の1ずつ A・B・C」と3人共有になった土地があるとします。この後Bさんの相続人が行方不明になると、この土地は誰も動かせなくなります。
こうした家は、雨漏りしても、塀が崩れそうでも、誰も直せず、誰も売れず、誰も買えません。困るのはご近所と市役所です。
改正民法で買える4つの制度──264条の2、262条の2ほか
2025年10月19日に施行された改正民法が、この行き止まりを打開しました。不動産だけをピンポイントで動かせる4つの制度が誕生したのです。
旧制度(不在者財産管理人)は、行方不明の人の全財産(預金も株も全部)を調べる必要があり、予納金も期間も大きくかかりました。新制度は「その家だけ」を速く動かせるように設計されています。
改正民法4制度の手続きフロー比較
所有者まるごと不明
- 管理命令の申立て土地264条の2 / 建物264条の8
- 管理人選任裁判所が弁護士を選任
- 鑑定評価提出適正価格の根拠を作る
- 売却許可裁判所が許可を出す
- 管理人と契約購入完了
期間: 半年〜1年
予納金: 50〜100万円
共有者の一部が不明
- 持分価格算定不明者の持分の価格を決める
- 法務局に供託持分価格を国に預ける
- 持分取得 or 譲渡申立て262条の2(自分で取得)/ 262条の3(第三者へ譲渡)
- 裁判所の決定持分取得または譲渡許可
- 取得完了不明者の持分を含めて所有権確定
条件: 相続開始から10年経過(遺産共有の場合)
制約: 譲渡は決定から2ヶ月以内
管理命令系は「管理人が売る」、共有持分系は「残りの共有者が持分を集める」という構造の違いがある
| 系統 | 制度(条文) | どんなときに使う | 何ができる |
|---|---|---|---|
| 家まるごと不明 | 所有者不明土地管理命令(民法264条の2) | 土地の持ち主がわからない | 裁判所が管理人を付け、許可を得て売却まで可能 |
| 家まるごと不明 | 所有者不明建物管理命令(民法264条の8) | 建物の持ち主がわからない | 同上の建物版 |
| 共有者の一部が不明 | 所在等不明共有者の持分取得(民法262条の2) | 共有者の1人が行方不明で、残りの共有者が持分を引き取りたい | 裁判所の決定で、不明者の持分を残りの共有者が取得できる |
| 共有者の一部が不明 | 所在等不明共有者の持分譲渡(民法262条の3) | 共有者の1人が行方不明だが、家ごと第三者に売ってしまいたい | 裁判所の決定で、不明者の持分も含めて第三者へまとめて売却できる |
新制度の最大の革命は、購入を希望する不動産会社自身が申立てできる点です。 買い手が自分で制度を動かせる、という構造がビジネス上の大転換になります。
手続きの流れ──家まるごと所有者不明の場合
所有者不明土地管理命令(民法264条の2)と所有者不明建物管理命令(民法264条の8)の手続きを見てみましょう。
STEP 1: 空き家を見つけ、登記簿で持ち主を調べる
STEP 2: 裁判所に「管理人を付けてください」と申し立てる - 申立てできる人には、購入希望の不動産会社も含まれる - 費用: 予納金50〜100万円を裁判所に預ける(管理人である弁護士の報酬に使われ、余れば返ってくる) - 書類作成を司法書士に頼み本人申立ての形なら、手続費用は目安15万円程度(予納金は別)
STEP 3: 管理人が就任(ほぼ弁護士が選ばれる)
STEP 4: 裁判所が処分(売却)を許可する - 売却にあたっては、適正な価格の根拠として不動産鑑定評価書の提出が求められることが一般的です
STEP 5: 管理人と売買契約を結び、購入する - 期間の目安: 半年〜1年
共有者の一部が行方不明の場合(民法262条の2、262条の3)は、不明者の持分の価格を法務局に供託(国に預けておく)し、裁判所に申し立て、決定を得て持分を取得または家ごと第三者へ売却します。
制度の適用には法律上の要件があるため、個別の判断は弁護士・司法書士等の専門家にご確認ください。
鑑定評価の威力──公的な根拠が裁判所を動かす
管理人(弁護士)の仕事は、できるだけ高く売ることではありません。適正な根拠のある価格で、きちんと処分することです。管理人は他人の財産を売る立場なので、後から「安売りしただろう」と言われないための根拠を何より欲しがります。
その根拠こそ、不動産鑑定評価書です。不動産鑑定士は不動産の経済価値を判定する国家資格で、年間の論文式試験合格者は135〜175名程度(国土交通省)。司法試験の約1,500人、公認会計士の約1,600人と比べても、桁が一つ少ない狭き門です。
鑑定士の仕事を見ると、この資格の「公的さ」がわかります。
| 鑑定士の仕事 | 依頼主 |
|---|---|
| 地価公示・地価調査(毎年ニュースになる「公示地価」) | 国土交通省・都道府県 |
| 固定資産税の評価 | 各市町村 |
| 路線価を定めるための評価 | 国税局 |
| 競売物件の評価書 | 裁判所 |
| 担保不動産の評価 | 金融機関 |
| 売買・相続の鑑定評価、賃料・立退料の算定 | 個人・法人 |
つまり鑑定士とは、国・市町村・裁判所・銀行が「値段を決めるとき」に呼ぶ専門家です。だから鑑定評価書は、裁判の証拠資料になり、税務署へ提出でき、銀行の融資審査にも通用します。
国が税制(路線価)や公示地価で使っている鑑定士の評価は、公的な制度の基盤そのものです。この信用が、裁判所による売却許可の判断を支えます。
国家資格者の証明書が付いていれば、裁判所は安心して売却を許可できます。私たちが支援している現場では、鑑定評価付きの申請は多くが許可されています。
結果として、長年放置された物件は傷みや権利関係の複雑さの分だけ実際に価値が下がっており、鑑定評価はそれを正直に映します。相場の5〜6割、場合によってはそれ以下での取得が、適正な手続きを経て成立するケースがあります。
一物一価ではない──値段に2〜3割の幅がある理由
ペットボトルのお茶を思い浮かべてください。スーパーで90円、自動販売機で160円、テーマパークの中では300円。同じ商品なのに、売る場所と事情で値段が変わります。
不動産はこれがもっと極端です。不動産鑑定の実務では、物件の個別性や取引条件によって、評価額に一定の幅が生じることが知られています。
大事なのは、「幅がある=いくらでもいい」ではないことです。100円のお茶を1万円と値付けしたら誰も認めません。幅の中で、根拠をもって値段を決める専門家が必要になります。それが不動産鑑定士です。
長年放置された家は傷みや権利関係の複雑さの分だけ実際に価値が下がっており、評価はそれを正直に映します。「安く買い叩いた」のではなく、鑑定評価書という公的な根拠に基づいて「その物件の実態に合った価格」で買うからこそ、裁判所も売却を許可できるのです。
行政連携で案件が集まる仕組み──信用を積み上げる布陣
所有者不明土地の情報は、苦情を受ける市役所に集まります。この仕組みを活かすには、行政との連携が鍵になります。
実際に機能している空き家相談の仕組みは、弁護士・司法書士・土地家屋調査士・行政書士・不動産会社・解体業者・遺品整理業者など、複数の専門家がチームを組む形です。
空き家の悩みは「登記」「税金」「解体」「売却」が絡み合っているので、どの入口から相談が来ても、チームの誰かが受け止められる布陣にしておくのです。所有者調査の効率化については、所有者調査のデジタル化と実務判断で詳しく解説しています。
立ち上げから軌道に乗るまでの流れはこうです。
STEP 1 仕事仲間の専門家でチームを作る
↓
STEP 2 行政(市役所)に活動を説明し、連携協定を目指す
※実績がない段階では相手にされないこともある
1つの市で実績を作ると、横のつながりで広がる
↓
STEP 3 市役所と共催で「空き家セミナー」を開く
※集客は市役所が回覧板などでサポートする
↓
STEP 4 セミナー参加者の「個別相談」を受ける(無料)
※相談で一番多いのは「何から始めていいかわからない」
↓
STEP 5 実際の仕事(売却・登記・解体など)が発生したら、
チームの各社が正式に有料で受ける
空き家の相談者には高齢の方が多く、一番の不安は「変な業者にだまされないか」です。そこで効くのが、「市役所と一緒にセミナーをやっている団体」という信用です。行政連携の実績そのものが、どんな広告よりも強い安心材料になります。
| 広告(一括査定サイトなど) | 行政連携モデル | |
|---|---|---|
| お金 | 払い続ける必要がある | ほぼゼロ |
| 効果の続き方 | 止めた瞬間に消える | 実績として積み上がる |
| 顧客の心理 | 「営業されそう」と警戒される | 「行政と組んでいるなら安心」 |
無料相談と有料の実務は、承諾書で切り分けます。「ここからは各事業会社の有料の仕事になります」という署名をもらう。この切り分けを徹底することで、トラブルを避けられます。
情報発信については、物件紹介動画を内製するときの現実的なコストと限界で空き家相談の周知に使える動画制作の実務を解説しています。
どうやって対象物件を見つけるのか(3ルート)
対象物件を見つけるルートは3つあります。
1. 行政ルート 持ち主を追いきれなくなった物件の情報は、苦情を受ける市役所に集まります。行政連携が、そのままこの制度の入口になります。
2. 足で探す 街を歩けば、管理されていない家は見ればわかります(郵便受けがあふれている、落ち葉が積もったまま、など)。見つけたら登記簿を調べます。
3. 欲しい場所で申し立てる 調査の途中で持ち主が見つかったら、その人と普通に交渉すればよいだけ。調査は無駄になりません。
できないこと・注意点(ここが一番大事)
良い話ばかりではありません。法律上の制約と、実務上の注意を正確に押さえましょう。
法律上の制約
- 10年ルール: 不明者の持分が「遺産共有状態」(相続したままの共有)の場合、相続開始から10年経過していないと持分取得制度(民法262条の2)は使えない
- 異議ルール: 他の共有者から異議の申出があった場合、持分取得制度は使えない
- 2ヶ月ルール: 持分譲渡(民法262条の3)は、裁判所の審判から2ヶ月以内に譲渡する必要がある
- 分譲マンションは対象外: 区分建物には建物管理命令(民法264条の8)が使えない(区分所有法の改正で「所有者不明専有部分管理命令」が2025年10月19日に施行され、手当てされつつある)
実務上の注意
- 使えるのは「本当に持ち主がわからない物件」だけ。 相続人がいて所在もわかっている物件は、全員の同意が必要な通常の取引になります。
- 申し立てた人が必ず買えるとは限りません。 管理人の判断や他の買い手次第です。
- お金と時間が先に出ます。 予納金+半年〜1年。すぐ儲かる話ではなく、種をまいて順番に収穫する「仕込み型」です。
- 制度が新しい。 裁判所の運用もまだ固まりきっておらず、実務は発展途上です。
それでも、この制度を知っている不動産会社は多くありません。プロの不動産会社ですら「遭遇したことはあるが、手の出し方がなくて諦めていた」という世界です。知っていること自体が、まだ強力な差別化になります。
所有者不明以外の訳あり物件については、再建築不可物件の見極め方と価値創造で別の制度と実務手順を、複雑な権利関係の物件を動かす3つのパターンで共有持分・底地・借地権の実務を解説しています。
この制度の本質──公の仕組みの中に受け皿を作る
ふつうの不動産会社は、広告費を払って「売りたい人」を探しに行きます。所有者不明土地の仕組みは逆です。
行政・裁判所・税制という「公の仕組み」の中に受け皿を作り、案件のほうから流れてくるようにする。地域の困りごと(空き家)を解決すること自体が、そのまま事業になっている。広告と違って、積み上げた行政連携の実績は消えない資産になる。
所有者不明土地は2040年には約780万ヘクタール(北海道全土相当)に拡大する可能性があります。売り物件がこれから構造的に増え続けるのに、それを受け止める仕組みを持っている会社はほとんどありません。
改正民法は、準備した人にチャンスを与える制度です。
よくある質問
Q. 所有者不明の不動産を買うのは合法ですか?
A. 2023年4月に施行された改正民法の正式な制度(民法264条の2ほか)で、裁判所が選んだ管理人から、裁判所の許可を得て購入します。手続きのすべてに裁判所が関与する、もっとも表のやり方です。
Q. なぜ相場より安く買えるのですか?
A. 管理人の仕事は高値で売ることではなく、適正な根拠のある価格で処分することです。鑑定評価書という公的な根拠に基づいて「その物件の実態に合った価格」で買うため、長年放置された家は傷みや権利関係の複雑さの分だけ実際に価値が下がっており、評価はそれを正直に映します。
Q. 申立てから購入までどれくらいかかりますか?
A. 予納金50〜100万円(余れば返金)と手続費用約15万円が目安で、期間は半年から1年です。すぐに結果が出る投資ではなく、種をまいて順番に収穫する仕込み型です。
Q. 相続人がいる普通の空き家にもこの制度は使えますか?
A. 使えません。相続人がいて所在もわかっている物件は、全員の同意を得る通常の取引になります。さらに共有持分の制度には「相続開始から10年」などの法律上の条件もあります。
Q. どうやって対象物件を見つけるのですか?
A. 行政ルート(市役所に集まる苦情案件)、足で探す(郵便受けがあふれている等の管理されていない家を見つけて登記簿を調べる)、欲しい場所で申し立てる(調査の途中で持ち主が見つかったら普通に交渉すればよい)の3ルートがあります。
相談窓口
所有者不明不動産の取得は、法律・登記・鑑定評価・税務が絡み合う専門領域です。制度の適用条件、手続きの進め方、鑑定評価の依頼先、行政連携の始め方は、案件ごとに最適解が変わります。
生成AIを貴社の業務にどう組み込むかは、扱う物件・組織の規模・現在の業務フローによって最適解が変わります。株式会社MCOでは、不動産・建設業に特化したAI経営コンサルティングと実装代行、社内定着までの伴走を行っています。まずは公式LINEからお気軽にご相談ください。