この記事の結論
空き家の所有者調査とは、登記情報から所有者を特定し、現住所を追跡して発送可能な宛名リストを作成する業務です。登記情報提供サービス140円で所有者事項を取得し、AI名寄せで住所表記の揺れを吸収、発送代行まで一貫したフローを組めば、手作業で1件30分かかる調査を3分に短縮できます。ただし、住民票・戸籍附票の第三者請求は「正当な理由」が必要で、売買勧誘目的では取得できないため、現住所の追跡は司法書士・弁護士の職務上請求に委託するか、一旦保留する判断が必要です。
なぜ「持ち主不明」の空き家が生まれるのか
空き家900万戸(2023年住宅・土地統計調査)のうち、持ち主に連絡がつかない物件が大量に存在します。理由は単純で、不動産登記は引っ越しても自動更新されないからです。
登記簿に記載された住所は「登記時点のもの」であり、所有者が転居しても登記上の住所は変わりません。登記が古いほど、所有者は既に別の場所に住んでいる可能性が高く、登記住所へ郵送しても宛所不明で返ってきます。
さらに厄介なのが相続未登記です。名義人が死亡しても相続登記がされないまま放置され、その相続人も死亡すると、誰が本当の所有者か追いかけるのに膨大な手間がかかります。2024年4月から相続登記が義務化されましたが、既存の未登記は依然として大量に残っています。
この「住所が古い」「相続未登記」の壁を乗り越えるために、デジタル化されたフローと専門家連携が必要になります。
デジタル化の全体像──4つのステップ
所有者調査フローは以下の4ステップで構成されます。
空き家住所 → [STEP1]地番変換 → [STEP2]登記取得 → [STEP3]状態判定
├─ A/B → 発送宛名リスト
└─ C/D → 専門家エスカレ
このうちSTEP1とSTEP2はほぼ自動化でき、STEP3の判定ロジックもAIで8割はカバーできます。残る2割(相続未登記・所有者不明)が専門家の領域です。
STEP1: 住所から地番へ──無料で引ける4つの方法
住所から地番への変換は、登記情報提供サービスの地番検索・法務局への電話照会など、無料で実行できます。登記は「地番・家屋番号」で管理されており、普段使う住所(住居表示)では引けません。まず地番に変換する必要があります。
| 方法 | 料金 | 特徴 |
|---|---|---|
| 登記情報提供サービスの地番検索 | 無料 | 地図から地番を確認できる |
| ブルーマップ | 閲覧のみ | 住居表示と地番の対照地図(図書館・有料閲覧) |
| 法務局へ電話 | 無料 | 管轄法務局に地番照会(無料) |
| 民間の地番検索サービス | 有料 | JTN等のサービス |
現地調査で緯度経度を取得している場合、地図上で地番を特定するのが最も速い方法です。ご近所ワークなどの現地調査サービスで位置情報を記録しておけば、STEP1はほぼ自動化できます。
STEP2: 登記情報の取得──140円から始める
オンラインで即時PDF取得できる登記情報提供サービスを使います。
登記情報提供サービスの選択基準
| 所有者事項 | 全部事項 | |
|---|---|---|
| 料金(1通) | 140円 | 330円 |
| 取得内容 | 所有者氏名・住所のみ | 所有者・権利・抵当・相続履歴 |
| 使い分け | ◯ 初回取得はこちら | 相続・抵当疑いのみ |
| 1000件の差額 | 14万円 | 33万円(差19万円) |
| 利用時間 | 平日8:30-23:00/土日祝8:30-18:00 | |
※地図・図面の取得は平日21時まで
運用のコツは、まず所有者事項140円で取得し、相続・抵当が疑われる時だけ全部事項330円に上げることです。全件を全部事項で取得するとコストが2倍以上になり、1,000件で約19万円の差が出ます。
取得した登記情報からは、所有者の氏名と登記上の住所が分かります。登記が新しければ、この住所がそのまま現住所である確度が高く、発送リストに載せられます。
STEP3: 所有者の状態判定──4区分で処理を分岐する
取得した登記情報から、所有者の状態を4つに分類します。
所有者調査フローと4区分の処理分岐
A/B → 発送可能
- A: 生存・登記住所が現住所らしい
- B: 転居疑い(まず登記住所へ送付)
C/D → 専門家連携
- C: 相続未登記 → 司法書士
- D: 所有者不明 → 不動産鑑定士
| 区分 | 状態 | 処理 |
|---|---|---|
| A | 生存・登記住所が現住所らしい | 宛先確定 → 発送リスト |
| B | 登記住所が空き家と同一/古い(転居疑い) | まず登記住所へ送付。追跡は専門家経由 |
| C | 登記名義人が死亡(相続未登記) | 司法書士へエスカレーション |
| D | 所有者不明(相続人不存在・不在) | 不動産鑑定士へエスカレーション |
区分AとBは発送に載せられますが、CとDは専門家の領域です。この2割が、所有者不明不動産を買う4つの制度につながります。また、建築基準法の制約で価値が下がる物件も同様に、再建築不可物件の見極め方を参照してください。
STEP4: 現住所の追跡──住民票が取れない壁
登記住所への郵送で宛所不明となった場合、住民票・戸籍附票の第三者請求は「正当な理由」が必要で、売買勧誘目的では取得できないため、司法書士・弁護士の職務上請求に委託する必要があります。区分Bで登記住所へ送った郵便が宛所不明で返ってきた場合、現住所を追いたくなります。しかし、ここに大きな壁があります。
住民票・戸籍の附票の第三者請求は「正当な理由」が必要で、売買勧誘目的では取得できません。
不動産業者が「郵便物が届かない」という理由だけで住民票を取得することは、現行法では認められていません。この追跡は、司法書士・弁護士の職務上請求に委託するか、費用対効果が合わなければ一旦保留する判断が必要です。個別の判断は司法書士・弁護士等の専門家にご確認ください。
ただし、登記住所へ送ること自体は問題ありません。不動産登記は個人情報保護法の適用除外の公開情報であり、登記簿の所有者住所を使ったDM送付は現行法で違反になりません。相続後にDMが大量に届くのは、この仕組みによるものです。
運用としては、まず登記住所へそのまま送り、宛所不明で返送されたものだけ専門家に委託するか保留します。名義人の死亡が判明したら、区分C(相続未登記)としてエスカレーションします。
AI名寄せの実務──3つの吸収対象
AI名寄せは、同姓同名の判別・旧字体と新字体の対応・住所表記の揺れを自動で吸収し、手作業で半日かかる50件の名寄せを数分で完了させます。50件を超える登記取得と名寄せを手作業でやると、半日かかります。ここをスクリプト化すれば数分で完了しますが、単純な突合では以下の問題が起きます。
- 同姓同名の別人を同一人物と誤認する
- 旧字体と新字体の違いで同一人物を別人と判定する
- 住所表記の揺れ(番地と番、丁目表記の有無)で一致しない
AI名寄せでは、この3つを自動で吸収します。具体的には、登記から取得した所有者氏名・住所を正規化し、類似度スコアで同一人物判定を行います。同姓同名の判別には、住所の一部一致・生年月日(全部事項で取得できる場合)・複数物件の所有パターンを組み合わせます。
旧字体対応は辞書ベースで機械的に変換できますが、住所表記の揺れは「1丁目1番1号」「1-1-1」「一丁目1番地1」など複数のパターンがあり、正規化ルールを実装する必要があります。
AI導入効果を可視化する診断ツールの設計と同じく、自動化の効果は「何時間削減できるか」で測ります。手作業で1件30分かかる調査を、スクリプト化で3分に短縮できれば、1件あたり27分の削減です。月100件なら2,700分=45時間の削減になります。
キャッシュポイント設計──川上で収益を立てる
空き家調査から所有者への発送代行までを有償サービス化することで、買取成約前にキャッシュポイントを作り、月100通で粗利20万円の安定収益を確保できます。空き家の買取・仲介は入金が後ろにずれるため、今すぐキャッシュにはなりません。そこで手前の「空き家調査 → 所有者への発送代行」を有償サービス化することで、先に立つ収益(キャッシュポイント)を作ります。
実際の料金設計例です。
| プラン | 内容 | 価格 |
|---|---|---|
| 梅(リストのみ) | 空き家リスト(住所+写真+判定)納品 | 2,000円/件 |
| 竹(発送代行) | 調査+所有者特定+レター作成+郵送 全込み | 4,000円/通 |
| 松(反響獲得) | 竹+反響受付・アポ設定+月次レポート | 月10万円+4,000円/通+反響1万円/件 |
竹プランの原価は約2,000円/通(登記取得140円〜330円・地番変換無料・郵送実費・レター印刷・事務コスト)で、粗利率は約50%です。最低ロット100通/月なら、月40万円の売上で粗利20万円です。
発送で作った反響が、そのまま仕入れ(買取/媒介)のパイプラインになります。反響率1〜3%と仮定すれば、100通で1〜3件の反響が得られ、そのうち1件が成約すれば、発送費を十分に回収できます。
この設計は、AIを現場業務にどう組み込むかの実例でもあります。調査・名寄せ・レター生成をAIで自動化し、人間は専門家連携と反響対応に集中する役割分担です。発送レターの文面作成については、空き家所有者へのDM設計で詳しく解説しています。
よくある質問
Q. 登記住所が古い場合、どうやって現住所を追いますか?
A. 登記住所へ送った郵便が宛所不明で返送された場合、住民票・戸籍附票の第三者請求は「正当な理由」が必要で、売買勧誘目的では取得できません。この追跡は司法書士・弁護士の職務上請求に委託するか、費用対効果が合わなければ一旦保留します。
Q. 相続未登記の空き家はどう扱いますか?
A. 相続人調査が必要なケースは司法書士へエスカレーションします。2024年4月から相続登記が義務化されましたが、未登記は依然として大量に残存しており、この層を解錠するのが不動産鑑定士との協業の核心です。
Q. AI名寄せで何が自動化されますか?
A. 同姓同名の判別・旧字体と新字体の対応・住所表記の揺れ(番地と番の違い、丁目表記の有無)を自動で吸収します。50件を超える登記取得・名寄せを手作業でやると半日かかりますが、スクリプト化すれば数分で完了します。
Q. 登記情報提供サービスの利用時間は?
A. 平日8時30分から23時、土日祝は8時30分から18時です(地図・図面は平日21時まで)。即時PDF取得のため、法務局の窓口に行く必要はありません。
Q. 固定資産税の課税台帳は使えますか?
A. 固定資産税の名寄帳・課税明細は同一所有者の複数物件・未登記建物を一括把握できますが、取得は所有者本人・相続人・委任が原則で、第三者が勝手に取得することはできません。登記情報提供サービスが最初の一手です。
相談窓口
空き家の所有者調査フローをデジタル化する場合、登記情報の取得・名寄せ・発送までの一貫したシステム設計と、司法書士・不動産鑑定士との連携体制が必要です。50件を超えるバッチ処理では、手作業との効率差が顕著に現れます。
株式会社MCOでは、不動産会社の空き家仕入れ業務に特化したAI活用支援を行っています。調査・名寄せ・レター生成の自動化から、専門家連携のフロー設計まで、一貫して実装します。
生成AIを貴社の業務にどう組み込むかは、扱う物件・組織の規模・現在の業務フローによって最適解が変わります。株式会社MCOでは、不動産・建設業に特化したAI経営コンサルティングと実装代行、社内定着までの伴走を行っています。まずは公式LINEからお気軽にご相談ください。