この記事の結論
売買仲介は市況に追い風だが月次の振れ幅が大きく、好調な月に固定費を増やすと不調な月に赤字になる構造が生まれます。賃貸管理・定額サービス・月額コンサルなど月次経常収益(MRR)で固定費を買う規律を持ち、直近3ヶ月のMRR増分の範囲内でしか固定費を増やさない財務規律を守ることで、売買とストックのバランスを取りながら経営を安定させることができます。
売買仲介は好調でも、月次の振れ幅が経営を不安定にする
2026年6月、日本銀行は政策金利を1.0%に引き上げました。金利上昇局面にもかかわらず、既存住宅流通は堅調です。公益財団法人不動産流通推進センターの統計によれば、既存住宅流通量のシェアはこの10年間で8.1ポイント上昇し(2013年22.4%→2023年30.5%)、中古住宅市場は拡大を続けています。相続・資産処分の増加で売却依頼件数は増加傾向にあり、適正価格の物件は堅調に売れています。
しかし売買仲介の売上は月次の振れ幅が大きく、ある月は成約3件で900万円、翌月は0件で0円という変動が起きます。固定費は毎月発生するため、好調な月に固定費を増やすと不調な月に赤字になります。市況の変化に影響されにくい安定収入源を確保する必要があります。
MRR(月次経常収益)とは何か
月次経常収益(MRR: Monthly Recurring Revenue)とは、毎月確実に入ってくる収入のことです。売買仲介の成約報酬は含みません。不動産会社のMRRには次の3つがあります。
賃貸管理 管理戸数×管理料率で毎月入る収入です。管理戸数100戸・家賃単価5万円・管理料率5%なら、月次25万円のMRRになります。管理戸数は急に半減しないため、売買仲介より安定しています。
定額サービス 毎月一定額で特定の成果を届けるサービスです。「売主集客のYouTube台本を毎月2本納品」「月次の管理レポートと改善提案」といった形です。価格は月額3万円〜10万円が中心です。
月額コンサル 不動産会社が他の不動産会社に対して提供する継続支援です。例えば賃貸管理に強い会社が売買仲介に強い会社に管理のノウハウを月次で提供するケースがあります。価格は月額10万円〜30万円です。
この3つを合わせたMRRが、固定費を買う原資になります。
MRRで固定費を買う規律
「MRRで固定費を買う」とは、直近3ヶ月のMRR増分の範囲内でしか固定費を増やさないという財務規律です。
例えば直近3ヶ月でMRRが30万円増えたとします。この時、固定費を最大30万円まで増やすことが許されます。MRRが増えていないのに固定費を増やすことは禁止です。
この規律を守ると、次のことが起きます。
- MRRが増えない限り、固定費を増やせない(人員増・広告増・オフィス拡張の歯止めがかかる)
- 固定費を増やしたいなら、先にMRRを増やす行動をとる(管理受託・定額サービスの営業)
MRRで固定費を買う規律の判断フロー
MRRが増えない限り固定費を増やせない。固定費を増やしたいなら先にMRRを増やす行動をとる
私たちが支援している現場では、この規律を導入した会社が月次の赤字を回避し、売上の振れ幅±40%を±15%に圧縮した実例があります。規律を守るためには、月次でMRRと固定費を並べて確認する習慣が必要です。
ストック収益を構築する3つの事業モデル
MRRを増やすための事業モデルは3つあります。それぞれの特徴と始め方を示します。
1. 賃貸管理
始め方 売買仲介で成約した顧客の賃貸物件を管理受託することから始めます。売却後も賃貸で関係を継続し、相続案件では実家を賃貸に出す提案も有効です。管理戸数30戸を超えたら管理システムと専任担当を置きます。
収益構造 管理戸数100戸・家賃単価5万円・管理料率5%なら、月次25万円のMRRです。管理戸数200戸で月次50万円、300戸で月次75万円と積み上がります。
注意点 管理戸数が増えるとリフォーム・修繕の手配業務が増えます。管理料だけでなく、リフォーム・修繕の粗利を取る設計にしないと、業務量だけ増えて利益が薄い構造になります。
2. 定額サービス
始め方 自社が得意な領域を「毎月納品する形」にします。例えば「売主集客のYouTube台本を毎月2本納品」「月次の管理レポートと改善提案」「物件写真の撮影代行を毎月5物件」といった形です。
収益構造 1社あたり月額3万円〜10万円。10社と契約すれば月次30万円〜100万円のMRRです。解約率は年間20%程度(10社中2社が年間で解約)が実務上の目安です。
注意点 「顧問」という名前で曖昧な助言をする形では継続率が低くなります。具体的な納品物がある形にすることが条件です。
3. 月額コンサル
始め方 不動産会社が他の不動産会社に対して提供する継続支援です。賃貸管理に強い会社が売買仲介に強い会社に管理のノウハウを月次で提供するケースがあります。
収益構造 1社あたり月額10万円〜30万円。3社と契約すれば月次30万円〜90万円のMRRです。
注意点 顧問先と競合する地域では受託できないため、商圏を分ける必要があります。また、ノウハウを提供する側が自社で実績を持っていることが前提です。
| 事業モデル | 月額単価 | 10件での月次MRR | 始めやすさ | 解約率 |
|---|---|---|---|---|
| 賃貸管理 | 2,500円/戸 | 25万円(100戸) | 高い | 低い(年10%) |
| 定額サービス | 3万円〜10万円 | 30万円〜100万円 | 中程度 | 中程度(年20%) |
| 月額コンサル | 10万円〜30万円 | 100万円〜300万円 | 低い | 高い(年30%) |
売買仲介とストック収益のバランス設計
ストック収益の比率はどこまで高めるべきでしょうか。固定費をMRRで賄える水準が最低ライン、その先は売買とのバランスで決めます。
売買仲介の粗利率は高いため、MRRだけで売上を作ろうとすると成長が遅くなります。目安は固定費の120%をMRRで賄い、売買の利益は投資と成長に回す設計です。
例えば固定費が月250万円の会社なら、MRRを月300万円(管理戸数1,200戸または定額サービス30社)に設計します。この水準に到達すると、売買仲介の成約が0件の月でも赤字にならず、成約が発生した月の利益を広告投資・人材採用・システム導入に回せます。
売買仲介のみとストック収益併用の月次売上推移比較
売買仲介のみ
- 月次売上300万円〜900万円
- 振れ幅±40%(最小月と平均月の差)
- 不調な月成約0件で0円の月も発生
- 固定費月200万円(好調な月に増やした固定費が不調な月に赤字を生む)
ストック収益併用
- 月次売上400万円〜600万円
- 振れ幅±15%(MRRが下限を支える)
- 不調な月売買0件でもMRR80万円が入る
- 固定費月200万円(MRR増分の範囲内で増加)
関西の売買仲介会社(従業員12名)の実例。管理戸数400戸・MRR月次80万円で振れ幅を圧縮
関西のある売買仲介会社(従業員12名)は、賃貸管理戸数を5年かけて400戸まで増やし、MRRを月次80万円に到達させました。固定費は月200万円のため、MRRで固定費の40%を賄える構造になり、売買仲介の振れ幅±40%がストック収益で±15%に圧縮されました。
固定費を増やす前にMRRを増やす習慣
MRRで固定費を買う規律を守るためには、固定費を増やす前にMRRを増やす習慣を作る必要があります。
月次確認の型 毎月末に次の3つの数字を並べて確認します。 1. 今月のMRR実績 2. 直近3ヶ月のMRR増分 3. 来月の固定費予定額
固定費予定額がMRR増分を超えている場合は、固定費の増加を延期するか、MRRを増やす行動を先に取ります。
MRRを増やす行動の優先順位 1. 既存顧客への管理受託提案(売買成約後の賃貸管理) 2. 相続案件での実家の賃貸化提案 3. 定額サービスの設計と営業(自社の得意領域を月次納品形式に) 4. 管理戸数の追加受託営業(既存オーナーからの紹介)
この順番で行動することで、MRRを増やし、その増分の範囲内で固定費を増やすことができます。
政策金利1.0%時代の不動産融資戦略では、金利上昇と融資姿勢の引き締まりを踏まえた借入前提の事業計画の見直し手順を解説しています。MRRで固定費を買う規律と併せて読むと、資金繰りの安全性がさらに高まります。
既存住宅流通の拡大期こそ、安定基盤を作る
既存住宅流通量のシェアは10年間で8.1ポイント上昇しており(2013年22.4%→2023年30.5%、公益財団法人不動産流通推進センター調べ)、中古住宅市場は成長を続けています。相続・資産処分の増加で売却依頼件数は増加傾向にあり、私たちが支援している現場でも売買仲介の引き合いは堅調です。
相続を起点にした売主集客の実務で解説する通り、相続案件は売買成約と賃貸管理の両方につながる機会です。市場が拡大している時こそ、安定収入源を確保する絶好のタイミングです。売買仲介の好調な月に浮かれて固定費を増やすのではなく、MRRを増やす行動に投資することで、不調な月でも赤字にならない構造を作ることができます。
1人あたりの利益を上げる経営数値の見方では、売上・件数ではなく利益・1人あたりの利益を重視する経営指標の具体的な見方を解説しています。MRRで固定費を買う規律と併せて、利益重視の経営に転換する手順を確認できます。
固定費をMRRで買う規律を持ち、売買とストックのバランスを設計することで、市況の変化に影響されにくい経営基盤を作ることができます。
よくある質問
Q. 売買仲介が好調でも安定収入源が必要な理由は何ですか?
A. 売買仲介は市況に追い風の時でも月次の振れ幅が大きく、売上が3倍に変動する月もあります。固定費は毎月発生するため、月次経常収益(MRR)で固定費を買う規律を持たないと、好調な月に固定費を増やし不調な月に赤字になる構造が生まれます。
Q. MRRとは何ですか?
A. 月次経常収益(Monthly Recurring Revenue)のことで、賃貸管理・定額サービス・月額コンサルなど毎月確実に入ってくる収入を指します。売買仲介の成約報酬は含みません。MRRで固定費を買う規律とは、直近3ヶ月のMRR増分の範囲内でしか固定費を増やさないという財務規律です。
Q. 中小の不動産会社が賃貸管理事業を始める現実的な手順は?
A. まず売買仲介で成約した顧客の賃貸物件を管理受託することから始めます。売却後も賃貸で関係を継続し、相続案件では実家を賃貸に出す提案も有効です。管理戸数30戸を超えたら管理システムと専任担当を置き、100戸で月次30万円のMRRが見えてきます。
Q. 定額サービスで月額3万円のコンサルは不動産会社に売れますか?
A. 売れます。ただし「顧問」という名前ではなく、特定の成果を毎月届ける形にすることが条件です。例えば「売主集客のYouTube台本を毎月2本納品」「月次の管理レポートと改善提案を毎月提出」といった形です。曖昧な助言ではなく具体的な納品物がある定額サービスは継続率が高くなります。
Q. ストック収益の比率はどこまで高めるべきですか?
A. 固定費をMRRで賄える水準が最低ライン、その先は売買とのバランスで決めます。売買仲介の粗利率が高いため、MRRだけで売上を作ろうとすると成長が遅くなります。目安は固定費の120%をMRRで賄い、売買の利益は投資と成長に回す設計です。
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