この記事の結論
政策金利1.0%は31年ぶりの水準です。新規貸出金利は2021年の約0.6%から2026年の約1.6%へ3倍になり、日銀は2026年度考査で銀行に不動産向け融資の審査・管理体制を点検するよう指示しました。融資姿勢の引き締まりは制度的に進むため、借入前提の事業計画を今のうちに見直す必要があります。過剰在庫・過大借入・過剰社員を洗い出し、早期処分・返済計画見直し・固定費削減の3つを実行することで、金利上昇局面でも耐えられる体質に変えることができます。
政策金利1.0%──31年ぶりの高水準が意味すること
政策金利とは、中央銀行が金融機関に貸し出す際の基準となる金利であり、銀行の貸出金利や住宅ローン金利に直接影響します。
日本銀行は2025年10月27日、16日に開いた金融政策決定会合で、政策金利を0.75%から1.0%へ引き上げました。1%台の政策金利は1995年以来、約31年ぶりの高水準です。植田総裁が入院中のため氷見野副総裁が議長を務め、賛成7票、反対1票で決定されました。
この決定は、インフレの進行と賃金上昇を背景に、金融緩和から正常化へ舵を切る明確なシグナルです。年内にもう1回の追加利上げが観測されており、政策金利は2026年末までに1.25%〜1.5%に達する可能性があります。
不動産会社にとって、この金利上昇は3つの影響をもたらします。
- 新規借入の金利負担が増加する
- 融資審査が厳格化し、承認のハードルが上がる
- 既存の変動金利借入の利払いが増え、資金繰りを圧迫する
特に注目すべきは、政策金利の引き上げそのものよりも、銀行の融資姿勢が制度的に引き締まるという点です。この点については後述します。
新規貸出金利は3年で3倍になった
新規貸出金利は、2021年から2026年にかけて大幅に上昇しました。日本銀行が公表する貸出約定平均金利の統計によれば、2026年5月時点の新規貸出金利(国内銀行計)は約1.71%に達しています。2022年以降、市中金利の上昇に合わせて上昇に転じた後、日銀の利上げを受けて上昇に弾みがついた形です。
| 期間 | 新規貸出金利(国内銀行計・参考値) |
|---|---|
| 2021年 | 約0.6% |
| 2024年 | 約1.1% |
| 2026年5月 | 約1.71% |
2021年の底から2026年上期までの期間で、新規貸出金利は約3倍に上昇しました。この上昇ペースは、過去20年間で最も急激です。
金利上昇が不動産会社に与える影響の連鎖
融資姿勢の引き締まりは個別の銀行判断ではなく制度的に進む
この数値は、新規に借りる際の金利です。既存の変動金利借入も、金利改定のタイミングで同様に上昇します。例えば、5年前に0.6%で借りた5億円の借入が、今年の金利改定で1.6%になった場合、年間の利払いは300万円から800万円へ500万円増加します。この500万円は、売上を1円も増やさずに確実に利益を圧迫します。
日銀が銀行に「不動産向け融資を点検せよ」と指示
融資姿勢の引き締まりは、個別の銀行判断ではなく制度的に進みます。日本銀行は2025年10月27日に発表した2026年度考査方針で、不動産業向け貸出の審査・管理体制を点検することを重点事項として明示しました。
具体的には、以下の3点が点検対象となります。
- 大都市圏の貸出案件を中心に、貸出スタンス(どの程度積極的に貸すか)が適切か
- 審査体制と管理体制が機能しているか
- 金利上昇や不動産価格下落を想定したストレス時の審査・管理体制が整っているか
この方針が出た背景には、2025年12月時点で不動産業向け貸出残高が約115兆円に達し、前年比7.8%増と高い伸びが続いていることがあります。2023年3月以降、成長率が5%を超える状態が続いており、日銀は過熱を警戒しています。
銀行にとって、日銀の考査は金融庁の検査と並ぶ重要なイベントです。考査で問題を指摘されると、貸出方針の見直しを迫られます。つまり、融資姿勢の引き締まりは、個別の銀行の判断ではなく、制度的に進むと見るべきです。
実際に、2026年4月以降、地方銀行を中心に不動産業向け融資の減額や謝絶が増えています。私たちが支援している現場では、「前回まで通っていた同じ条件の融資が、今回は否決された」という声を複数の顧問先から聞いています。
大手3社の有利子負債が2.2倍に膨張──構造的な脆弱性
不動産業界は低金利を前提に借入依存度を高めてきた構造的リスクを抱えています。大手不動産3社(三菱地所・三井不動産・住友不動産)の有利子負債は、各社の有価証券報告書によれば、2011年から2025年までの間に大幅に増加しました。
低金利時代には、借入金利が低いため利払い負担が軽く、積極的な借入による事業拡大が可能でした。しかし、金利上昇局面では、同じ借入額でも利払いが大幅に増加するため、借入依存度の高い企業ほど利益が圧迫されます。
金利上昇による利払い負担の変化(有利子負債10億円の場合)
金利0.6%(2021年)
- 年間利払い600万円
- 月間負担50万円
- 営業利益5%の会社なら売上1.2億円分に相当
金利1.6%(2026年)
- 年間利払い1,600万円
- 月間負担約133万円
- 営業利益5%の会社なら売上3.2億円分に相当
同じ借入額でも利払いが1,000万円増え、2億円分の売上が利払いで消える
中小の不動産会社の多くは、高い借入依存度で事業を回しています。金利が0.6%の時代には利払いが軽く、問題になりませんでした。しかし、金利が1.6%になると、同じ借入額でも利払いが3倍弱に増えます。
例えば、有利子負債10億円の会社が0.6%で借りていた場合、年間の利払いは600万円です。これが1.6%になると1,600万円になり、1,000万円の利益が消えます。営業利益率5%の会社なら、2億円分の売上が利払いで消える計算です。
この構造的な脆弱性は、金利上昇局面で一気に顕在化します。売上を伸ばしても利益が残らない、むしろ売上が増えるほど在庫が増えて借入が膨らみ、利払いが増えて赤字になる──こうした悪循環に陥る企業が増えています。
売上・件数ではなく「1人当たり利益」を見る経営に切り替えることが、この悪循環から抜け出す第一歩です。
借入前提の事業計画を見直す3つの手順
借入金と利払いの洗い出し、金利上昇シナリオでの試算、在庫・借入・人員のバランス再設計の3つの手順で事業計画を見直します。金利上昇と融資審査の厳格化が制度的に進む以上、今のうちに着手する必要があります。
手順1: 現在の借入金と利払いを洗い出す
まず、現在の借入金の内訳を一覧にします。必要な項目は、①借入先、②借入額、③金利、④返済期間、⑤固定金利か変動金利か、⑥毎月の返済額、⑦年間の利払い額です。
この一覧を作ると、どの借入の金利が高いか、どの借入が変動金利で金利上昇リスクに晒されているかが見えます。変動金利の借入が多い場合は、固定金利への借り換えを検討する価値があります。ただし、借り換えには手数料・保証料・登記費用がかかり、固定金利は変動金利より金利が高めに設定されているため、総返済額を試算して判断する必要があります。
手順2: 金利が1.5%・2.0%になった場合の利払いを試算する
次に、年内の追加利上げや2027年以降のさらなる利上げを想定し、金利が1.5%・2.0%になった場合の利払いを試算します。
例えば、有利子負債5億円を1.0%で借りている場合、年間の利払いは500万円です。これが1.5%になると750万円、2.0%になると1,000万円です。現在の営業利益から、この増加分を差し引いた額がマイナスになるなら、事業計画そのものが成り立ちません。
この試算で赤字転落が見える場合は、借入金を圧縮するか、営業利益を増やすか、固定費を削減するかの3択です。最も効果が早いのは、在庫の早期処分による借入金の圧縮です。
手順3: 在庫・借入・人員の3つのバランスを再設計する
最後に、在庫・借入・人員の3つのバランスを再設計します。在庫が多いと借入が増え、利払いが増えます。人員が多いと固定費が増え、利益が圧迫されます。金利上昇局面では、この3つを同時に見直す必要があります。
具体的には、①在庫回転率を上げる(仕入れから販売までの期間を短縮する)、②売れ残り在庫を値下げしてでも早期に処分する、③過剰人員を適正化する、の3点です。詳細は次のセクションで解説します。
過剰在庫・過大借入・過剰社員の見直しポイント
在庫は3ヶ月以内に売れない物件を値下げして早期処分し、有利子負債は月商の6ヶ月分以下に圧縮し、1人当たり粗利が年1,000万円を下回る場合は生産性向上を図ります。金利上昇局面では、過剰な在庫・過大な借入金・過剰な人員が、将来の足枷となります。私たちが支援している現場でも、この3つの見直しを急ぐ必要性が高まっています。
過剰在庫の見直し
在庫として保有している物件を、以下の3つに分類します。
- 3ヶ月以内に売れる見込みの物件
- 値下げすれば売れる物件
- 値下げしても売れない物件
3ヶ月以内に売れる見込みのない物件は、原則として値下げして早期処分します。値下げ幅は、粗利ゼロでも構いません。粗利ゼロで売却しても、借入金を圧縮できれば利払いが減り、資金繰りが改善します。
値下げしても売れない物件は、用途転換・建て替え・更地にして土地分譲など、商品化を変える必要があります。それでも売れない場合は、賃貸に回して収益物件化し、長期保有に切り替えます。
在庫回転率の目安は、年4回転(3ヶ月で1回転)です。これを下回っている場合は、仕入れ基準が甘いか、価格設定が高すぎるか、商品化に時間がかかりすぎているかのいずれかです。
過大借入の見直し
有利子負債が月商の6ヶ月分を超えると、返済負担が重くなります。12ヶ月分を超えると過大借入と見なされ、追加融資を受けにくくなります。
また、営業利益÷支払利息が3倍以上あれば健全、1.5倍を下回ると利払いが利益を圧迫している状態です。この比率が1倍を下回ると、営業利益の全てが利払いで消える計算になり、非常に危険です。
借入金を圧縮する方法は、①在庫の早期処分、②不要な資産の売却、③営業利益の増加分を全額返済に回す、の3つです。特に、①の在庫処分が最も効果が早く現れます。
過剰社員の見直し
1人当たりの粗利が年間1,000万円を下回っている場合、人件費と固定費を賄えていない可能性があります。不動産業界の目安として、1人当たりの粗利が年間1,500万円以上あれば健全、1,000万円を下回ると過剰人員か、生産性が低い状態です。
過剰人員を適正化する前に、まず生産性を上げる余地がないかを確認します。反響対応・追客のAI化や代表のAI業務環境の実際で示したように、AI活用で1人当たりの処理量を2倍〜3倍に上げることができれば、人員を減らさずに粗利を増やせます。
それでも1人当たり粗利が改善しない場合は、退職者の補充を止める、新卒採用を見送る、賞与を抑えるなどの対策が必要です。
市況に影響されない安定収入源の確保
賃貸管理のストック収益、リフォームの定期受注、相続案件の継続的な開拓の3つが、金利上昇局面で売上の振れ幅を小さくします。売買仲介だけに依存していると、市況が悪化した時に売上が急減するため、市況に影響されない安定収入源の作り方が重要です。
具体的には、以下の3つが有効です。
- 賃貸管理・建物管理のストック収益
- リフォーム・修繕の定期受注
- 相続案件の継続的な開拓
賃貸管理は、管理戸数を増やせば毎月の管理料収入が積み上がり、売買の波があっても安定します。リフォームは、既存顧客からのリピート受注が見込めます。相続案件は、高齢者施設への入居斡旋、空き家の買取、実家の売却支援など、今後10年間で確実に増加する分野です。
世の中の変化が激しく、予測の立てにくい時代だからこそ、市況の変化に影響されにくい安定収入源を確保することが重要です。売買仲介の波を埋める収益源を、今のうちに育てておく必要があります。
固定金利への借り換えタイミング
年内の追加利上げが観測されており、変動金利で借りている場合は固定金利への借り換えを検討するタイミングは今です。ただし、借り換えには手数料・保証料・登記費用がかかり、固定金利は変動金利より0.5〜1.0%高く設定されているため、総返済額を試算して判断する必要があります。
ただし、借り換えには以下の注意点があります。
- 借り換え手数料・保証料・登記費用がかかる(借入額の1〜3%程度)
- 固定金利は変動金利より0.5〜1.0%高く設定されている
- 借り換え審査では現在の収益力と返済能力が問われる
業績が悪化している場合は、借り換え審査に通らないリスクがあります。また、固定金利が高めに設定されている分、総返済額が増える場合もあります。借り換えのメリットがあるかどうかは、①変動金利が今後どこまで上がるか、②固定金利との金利差、③借入残高と残存期間、の3つで決まります。
試算の結果、固定金利の方が総返済額が少なくなる場合、または、変動金利の上昇リスクを避けたい場合は、借り換えを検討する価値があります。
※ 融資条件・借り換えの可否・具体的な金利条件は金融機関の審査によります。個別の資金繰り・返済計画については、税理士や金融機関にご確認ください。
よくある質問
Q. 政策金利1.0%は不動産会社の融資にどのような影響を与えますか?
A. 新規借入の金利負担が増加し、融資審査が厳格化します。日銀は2026年度考査で銀行に対し、不動産業向け貸出の審査・管理体制を点検するよう指示しました。貸出金利は2021年の約0.6%から2026年の約1.6%へ3倍になっており、同じ借入額でも利払いが増えるため、資金繰りに影響が出ます。また、金利上昇や不動産価格下落を想定したストレス審査も求められるため、融資承認のハードルが上がります。
Q. 固定金利への借り換えは今すぐ検討すべきですか?
A. 年内にもう1回の追加利上げが観測されているため、変動金利で借りている場合は固定金利への借り換えを早期に検討する価値があります。ただし、借り換えには手数料・保証料・登記費用がかかり、固定金利は変動金利より金利が高めに設定されているため、総返済額を試算して判断する必要があります。また、借り換え審査では現在の収益力と返済能力が問われるため、業績が悪化している場合は審査に通らないリスクもあります。
Q. 銀行が融資審査で最も重視するポイントは何ですか?
A. 2026年度考査では、①大都市圏の貸出案件の審査・管理体制、②金利上昇や不動産価格下落を想定したストレス時の審査、③貸出スタンスの妥当性が点検されます。銀行は、企業の返済能力(営業キャッシュフロー)、有利子負債の水準、在庫回転率、利益率を以前より厳しく見るようになります。特に、売れ残り在庫を多く抱えている企業や、過去の低金利時に過大な借入をした企業は、追加融資を断られるケースが増えています。
Q. 借入金の適正水準はどのように判断すればよいですか?
A. 一般的な目安として、有利子負債が月商の6ヶ月分を超えると返済負担が重くなり、12ヶ月分を超えると過大借入と見なされます。また、営業利益÷支払利息が3倍以上あれば健全、1.5倍を下回ると利払いが利益を圧迫している状態です。不動産会社の場合、在庫として保有している物件の簿価と時価の乖離も重要です。仕入れ価格のまま帳簿に載っている物件が実際には値下がりしている場合、実質的な債務超過に陥るリスクがあります。
Q. 中小の不動産会社が今すぐ取るべき対策は何ですか?
A. ①在庫の棚卸しと早期処分、②借入金の返済計画の見直し、③固定費の削減です。特に、売れ残り在庫を抱えている場合は、値下げしてでも早期に現金化し、借入金を圧縮することが最優先です。また、売上・件数ではなく利益と1人当たり利益を重視する経営に切り替え、市況に影響されない安定収入源(賃貸管理・リフォーム・相続案件)を確保することで、金利上昇局面でも耐えられる体質に変えることができます。
相談窓口
政策金利1.0%への引き上げと融資審査の厳格化は、不動産会社の資金繰りに直接影響します。在庫・借入・人員のバランスを見直し、利益を確保できる体質に変える必要があります。
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