この記事の結論
インボイス制度の経過措置により、免税事業者への外注費は控除80%→70%→50%→30%→0%へ段階的に縮小されます。現在(2026年8月)は80%期間の最終盤で、2ヶ月後の2026年10月から70%制限に入ります。発注前に国税庁サイトで登録番号を確認し、未登録先への外注は控除制限分のコスト増を試算に織り込んで粗利設計を変更する運用が必要です。
不動産の買取再販やリフォーム再販では、外注先の登録状況が利益に直結します。個人事業主の職人や小規模なリフォーム業者の中には、年間売上1,000万円以下でインボイス登録をしていない免税事業者が一定数存在します。
この記事では、免税事業者への外注費について控除がどう制限されるのか、具体的な金額と手順で解説します。
インボイス制度の仕組み
インボイス制度(適格請求書等保存方式)は、2023年10月から始まった消費税の仕組みです。適格請求書(インボイス)とは、登録番号・税率・税額を記載した請求書のことです。
買い手が仕入税額控除を受けるには、売り手が発行したインボイスを保存する必要があります。インボイスを発行できるのは税務署に登録した課税事業者だけで、年間売上1,000万円以下の免税事業者は登録しなければ発行できません。
買取再販やリフォーム再販では工事を外注するのが一般的ですが、外注先が免税事業者の場合、発注側の仕入税額控除が制限されます。
期間別の控除割合──80%→70%→50%→30%→0%の段階縮小
免税事業者への外注費について、仕入税額控除は段階的に縮小されます。
免税事業者への外注費 控除割合の段階的縮小
2026年8月は80%期間の最終盤。10月から70%制限に移行します
| 期間 | 控除割合 | 控除できない分 |
|---|---|---|
| 〜2026年3月5日 | 80% | 仕入税額相当の20% |
| 2026年3月5日〜2026年3月5日 | 70% | 仕入税額相当の30% |
| 2026年3月5日〜2026年3月5日 | 50% | 仕入税額相当の50% |
| 2026年3月5日〜2026年3月5日 | 30% | 仕入税額相当の70% |
| 2026年3月5日〜 | 0% | 全額控除不可 |
現在(2026年8月)は80%期間の最終盤です。2ヶ月後の2026年10月から、控除割合が70%に制限されます。
この経過措置は、免税事業者が急にインボイス登録できない状況を考慮した激変緩和策です。ただし、2031年10月以降は全額控除できなくなります。最新の要件は国税庁または税理士にご確認ください。
外注費100万円の場合の控除額の差
具体的な金額で控除制限の影響を見ます。
外注費100万円(税込110万円)を免税事業者に支払った場合、控除割合によって控除額が変わります。
外注費100万円の場合 登録済みと未登録の納税額の違い
登録済み事業者への外注
- 控除額: 10万円(全額)
- 納税増加額: なし
- 粗利への影響: なし
未登録(免税)事業者への外注
- 2026年9月まで: 控除額8万円 → 納税2万円増
- 2026年10月から: 控除額7万円 → 納税3万円増
- 2028年10月から: 控除額5万円 → 納税5万円増
- 2031年10月から: 控除額0円 → 納税10万円増
控除できない分は納税額に上乗せされ、粗利を圧迫します
| 控除割合 | 控除額の計算 | 控除額 |
|---|---|---|
| 80%(〜2026年9月) | 110万円 × 10/110 × 80% | 8万円 |
| 70%(2026年10月〜2028年9月) | 110万円 × 10/110 × 70% | 7万円 |
| 50%(2028年10月〜2030年9月) | 110万円 × 10/110 × 50% | 5万円 |
| 30%(2030年10月〜2031年9月) | 110万円 × 10/110 × 30% | 3万円 |
| 0%(2031年10月〜) | 控除なし | 0円 |
2026年10月から70%制限になると、控除額が8万円→7万円に減ります。差額の1万円は控除できなくなり、その分納税額が増えます。
外注費が1,000万円なら、控除額の差は10万円です。さらに2028年10月から50%制限に入ると、控除額の差は累積で30万円になります。複数案件を同時に回している会社では、控除制限の影響が納税額に積み上がります。
発注前に登録番号を確認する手順
外注先がインボイス登録されているかどうかは、発注前に確認します。
確認手順:
- 国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」にアクセスする
- 外注先の登録番号(Tから始まる13桁)または法人番号・氏名で検索する
- 登録されていれば、登録番号・名称・登録年月日が表示される
- 登録されていない場合、検索結果に何も表示されない
外注先が個人事業主の場合、登録番号を事前に聞いておく必要があります。工事完了後に「インボイス発行できません」と言われても、控除制限は避けられません。
登録されていない場合の対応:
- 控除制限分のコスト増を試算に反映する
- 粗利設計を変更する(控除できない分を利益から差し引く)
- 外注先に登録を依頼する(ただし強制はできない)
外注先との関係性や技術力を考慮し、登録の有無だけで外注先を変えるべきではありません。ただし、未登録先への外注は「控除制限によるコスト増がある案件」として試算に織り込む運用が必要です。
控除のタイミングは役務提供の完了日
仕入税額控除を計上するタイミングは、支払日ではなく役務提供の完了日(引渡日)が属する課税期間です。2026年9月に契約や支払いを済ませても、工事完了が10月以降なら70%制限の対象です。
複数案件を並行して進めている会社では、工事完了日を一覧で管理し、控除割合ごとに納税見込みを集計する仕組みが必要です。買付試算シートで消費税納税見込みを先に出すことで、案件ごとの納税額を事前に把握できます。
リフォーム外注費と材料費の扱い
リフォーム外注費と材料費は、どちらも課税仕入れですが、外注先が免税事業者の場合は控除制限を受けます。ホームセンターや建材メーカーは課税事業者なので通常はインボイス発行されますが、個人経営の資材店から仕入れる場合は登録状況を確認する必要があります。
個人売主からの建物仕入れはインボイス不要
買取再販で個人売主から建物を取得する場合、インボイスがなくても仕入税額控除ができます。これは「宅地建物取引業者が販売目的の棚卸資産として建物を取得する場合」の特例で、帳簿に売主の氏名・住所・取引年月日・対価の額・特例対象である旨を記載すればインボイス保存なしで控除可能です。
この特例はリフォーム外注費には使えません。 リフォーム外注費は通常の課税仕入れなので、インボイス保存が必須です。
控除制限が買取再販の粗利を削る構造
免税事業者への外注費の控除制限は、買取再販の粗利を直接削ります。
粗利への影響の流れ:
- リフォーム外注費100万円(税込110万円)を免税事業者に支払う
- 80%控除なら8万円を控除できる→納税が8万円減る
- 70%控除なら7万円しか控除できない→納税が1万円増える
- 控除できない1万円は、粗利から差し引かれる
買取再販の粗利率は物件によって大きく異なりますが、10〜20%程度が目安です。外注費の控除制限で1万円のコスト増があれば、粗利率が0.2〜0.5%程度悪化します。さらに2028年10月から50%制限に入ると、控除できない分は3万円に増え、粗利率が0.5〜1%悪化します。
年間10件の買取再販を回す会社で、すべて免税事業者に外注している場合、控除制限による納税増は70%制限で年間10万円、50%制限では年間30万円です。これは粗利の圧迫要因として無視できない規模です。
試算シートに控除制限を織り込む設計
買付試算シートに、控除制限を織り込む行を追加します。
試算シートに追加する項目:
- リフォーム外注費の総額(税込)
- 外注先のインボイス登録状況(登録済/未登録)
- 適用される控除割合(80% / 70% / 50% / 30% / 0%)
- 控除額(外注費 × 10/110 × 控除割合)
- 控除できない分のコスト増
控除できない分は、納税見込みの増加として試算に反映します。税抜利益から控除できない分を差し引いて、実質的な粗利を計算します。
登録の有無で外注先を選ぶべきか
外注先の選定基準として、インボイス登録をどこまで重視すべきかは会社ごとに判断が分かれます。私たちが支援している現場では、既存の外注先との関係を維持しつつ、控除制限分をコストとして試算に反映する運用が一般的です。
技術力・信頼関係・対応の速さで外注先を選び、登録の有無は判断材料の一つとして扱います。ただし、外注費の規模が大きい案件や粗利が薄い案件では、登録の有無が採算を左右するため、案件ごとに判断基準を設けることが現実的です。
免税事業者側にとって、登録は消費税の納税義務(年間売上の約8〜10%)を負うかどうかの選択です。発注元が「未登録でも構わない」方針なら免税のまま納税を避ける選択も合理的で、「登録必須」方針なら登録のインセンティブが強まります。
他の諸経費の課税区分
リフォーム外注費以外の諸経費も、課税区分によって控除の可否が決まります。仲介手数料・司法書士報酬・残置物撤去は課税仕入れで、インボイスがあれば控除可能です。一方、登録免許税・不動産取得税・火災保険料・融資保証料は非課税・不課税なので控除対象外です。
課税区分の判断に迷う費目は、個別の判断は税理士にご確認ください。
社内運用ルールの設定
発注前に外注先の登録番号を国税庁サイトで確認し、未登録先は控除制限分のコスト増を試算に反映します。控除割合(80% / 70% / 50% / 30% / 0%)を試算シートに記載し、納税見込みを計算します。工事完了日を一覧で管理し、期間ごとの控除割合を正確に適用します。
これらのルールを営業・工事担当・経理が共有し、試算段階で控除制限を織り込む運用を徹底します。
再建築不可物件の見極め方と価値創造で扱う複雑な権利調整の案件でも、リフォーム外注費の控除制限は同様に適用されます。司法書士報酬は課税仕入れなので、インボイスがあれば全額控除できます。
よくある質問
Q. 免税事業者への外注費はいつから控除できなくなりますか?
A. 2026年9月までは80%控除、2026年10月から2028年9月までは70%控除、2028年10月から2030年9月までは50%控除、2030年10月から2031年9月までは30%控除、2031年10月以降は全額控除できません。段階的に制限が厳しくなります。
Q. 発注前に外注先がインボイス登録されているかどうか確認する方法は?
A. 国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で、外注先の登録番号または法人番号・氏名で検索できます。登録番号はTから始まる13桁の番号です。
Q. 控除制限で実際にどれくらいコストが増えますか?
A. 外注費100万円(税込110万円)の場合、80%控除なら控除額8万円、70%控除なら7万円、50%控除なら5万円、0%控除なら0円です。70%制限になると控除額が1万円減り、その分納税が増えます。
Q. すでに発注済みの工事の控除割合はいつの基準で決まりますか?
A. 控除のタイミングは役務提供の完了日(引渡日)が属する課税期間で決まります。支払日ではありません。2026年10月以降に完了する工事は70%制限の対象です。
Q. 免税事業者のままの職人に外注するのはやめるべきですか?
A. 関係性や技術力で選ぶべきで、登録の有無だけで判断する必要はありません。ただし未登録なら控除制限分のコスト増を試算に織り込み、粗利設計を変更する必要があります。
相談窓口
外注先の登録状況を把握し、控除制限分を試算に織り込む運用を整えておくことで、2026年10月以降の納税額の変動に備えることができます。試算シートの設計、外注先への確認フロー、社内運用ルールの設定など、現場の実務に即した支援が必要な場合はお気軽にご相談ください。
商談・内見の録音を議事録にするときの落とし穴と対処で解説している議事録作成の自動化と組み合わせることで、外注先との打ち合わせ内容を記録し、インボイス登録状況の確認漏れを防ぐことができます。
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