この記事の結論
ポータルサイトに掲載されている売出価格と、実際に成約した価格の間には大きな差があります。高値売出は必ず値を下げてしか売れない構造があり、築年帯が古いほどその差は拡大します。売出物件と成約物件の築年中央値を比較すると、築古物件が滞留し新しい物件から成約していく実態が見えます。自社のレインズデータから地域版を作成すれば、高値媒介を断る根拠として提示できます。
高値売出は値下げでしか売れない
不動産ポータルサイトに掲載されている価格と、実際に成約した価格の間には大きな差があります。
売出価格は売主の希望を反映した「売りたい価格」です。一方で成約価格は、買主が実際に購入を決断した「売れる価格」です。市場の需給と買主の支払い能力が成約価格を決めるため、売主の希望だけで価格は決まりません。
レインズ会員である不動産仲介会社は、自社商圏の売出物件と成約物件のデータを両方確認できます。そのデータから売出平均価格と成約平均価格を算出すると、地域・物件種別によって差が生じます。
私たちが不動産会社の支援をしている現場では、中古マンション・中古戸建てともに、売出価格と成約価格の間に10%〜30%程度の開きが確認されるケースが多く見られます。
この差は何を意味するのか。高値で売り出した物件は、買主が現れずに値下げを繰り返し、最終的に当初の売出価格よりも大幅に安い価格で売れるという構造を示しています。
売出価格と成約価格の格差構造
レインズ会員であれば誰でも自社商圏版を作成できます
共通しているのは「ポータルに掲載されている価格は、売れていない価格」という点です。
築古ほど拡大する格差
売出価格と成約価格の差は、築年数が古いほど大きくなります。
レインズ会員である不動産仲介会社が自社商圏のデータから築年帯別に売出平均と成約平均を算出すると、築年数が古いほど格差が拡大する傾向が確認されます。
私たちが支援している現場で確認できる傾向として:
- 築16-30年: 売出価格と成約価格の差は比較的小さい
- 築31-45年: 差が拡大し、2〜3割の開きが生じるケースが増える
- 築46年以上: 差がさらに拡大し、売出価格の半分近い価格で成約するケースも見られる
| 築年帯 | 価格差の傾向 |
|---|---|
| 築0-15年 | 比較的小さい(新しいため市場評価が安定) |
| 築16-30年 | やや拡大(設備劣化が評価に影響) |
| 築31-45年 | 大きく拡大(残存耐用年数が厳しく評価される) |
| 築46年以上 | 最も大きい(建替え前提の評価になる) |
なぜこれほど差が開くのかといえば、築古物件ほど売主の希望と市場評価の乖離が大きいからです。
売主は購入時の価格や周辺の新築価格を基準に考えますが、買主は築年数・設備の劣化・残存耐用年数を厳しく評価します。売主が「まだこれくらいで売れるはず」と期待する価格と、買主が「この状態ならこの価格まで」と判断する価格の間に、大きな開きが生まれます。
築年帯別の価格ギャップ(事例)
売出平均価格
- 築0-15年: 3,200万円
- 築16-30年: 2,500万円
- 築31-45年: 2,000万円
- 築46年〜: 1,500万円
成約平均価格
- 築0-15年: 3,000万円(▲6%)
- 築16-30年: 2,100万円(▲16%)
- 築31-45年: 1,300万円(▲35%)
- 築46年〜: 800万円(▲47%)
築古ほど格差が拡大し、売主の希望と市場評価の乖離が大きくなります
売出中央と成約中央の築年差
もう一つ重要な指標があります。売出物件の築年中央値と成約物件の築年中央値の差です。
レインズのデータから自社商圏の売出物件と成約物件を抽出し、それぞれの築年中央値を確認すると、売出物件の中央値が成約物件の中央値よりも明らかに古いという傾向が確認されます。
私たちが支援している現場では、両者の間に10年以上の差が生じているケースが多く見られます。
これは何を意味するのか。ポータルサイトに掲載されている物件(売出中)の中央が築30年前後であるのに対し、実際に売れている物件の中央は築15年前後という意味です。
築古の物件ほど売れ残り、新しい物件から成約していく構造がはっきり見えます。
在庫月数も示唆的です。東日本レインズの月例マーケットウォッチでは、首都圏の中古マンション・中古戸建ての在庫件数と成約件数が毎月公表されています。在庫件数を月間成約件数で割ると、「今のペースで売れ続けた場合、在庫を消化するのに何ヶ月かかるか」が分かります。
一般的な売却期間の目安が3ヶ月(90日)程度とされる中、市場全体ではそれを大きく上回る在庫が積み上がっているのが実態です。
売主が「3ヶ月で売れるはず」と期待しても、市場には多数の競合物件が存在し、その中で新しい物件から売れていく以上、築古物件の滞留は構造的に避けられません。
高値媒介が抱える3つの問題
高値で媒介を受けると、以下の3つの問題が発生します。
第一に、売却期間が長期化します。買主は複数の物件を比較検討するため、同じ条件なら安い物件から選ばれます。高値の物件は内見すら入らず、ポータルに掲載されたまま数ヶ月が経過します。
第二に、値下げを繰り返す過程で売主との信頼関係が損なわれます。「最初からもっと安く提案してくれればよかった」「業者は高値で釣って契約を取ろうとしている」という不信感が生まれます。
第三に、最終的な成約価格は適正価格を下回ることがあります。長期間売れ残った物件は「売れ残り物件」という印象を買主に与え、値下げ後も敬遠されます。結果として、最初から適正価格で出していれば成約できた価格よりも安く売れる事例が少なくありません。
政策金利1.0%時代の不動産融資戦略でも触れたように、金利上昇局面では買主の購入意欲が冷え込み、価格設定のミスが致命的になります。
自社商圏版を作成する手順
自社のレインズデータから地域版を作成すれば、売主への説得力が格段に上がります。
以下の手順で作成できます。
ステップ1: データ抽出期間を決める
直近3〜6ヶ月分のデータを使います。1年前のデータでは市況変化を反映できません。
ステップ2: 売出物件と成約物件を分ける
レインズから自社商圏(市区町村単位)の売出物件リストと成約物件リストをそれぞれダウンロードします。
ステップ3: 築年帯で区切る
物件を以下の築年帯に分類します。
- 築0-15年
- 築16-30年
- 築31-45年
- 築46年〜
サンプル数が少ない築年帯は隣接帯と統合します。
ステップ4: 各帯の平均価格を計算する
売出物件の平均価格と成約物件の平均価格を築年帯ごとに算出します。
ステップ5: 格差率を計算する
格差率 = (成約平均 - 売出平均) / 売出平均 × 100
たとえば売出平均2,000万円、成約平均1,300万円なら、(1,300 - 2,000) / 2,000 × 100 = ▲35.0%となります。
ステップ6: 売出中央と成約中央の築年を確認する
売出物件を築年でソートし、中央値(全体の真ん中の物件)の築年を確認します。成約物件も同様に確認します。
この表を商談資料として用意すれば、「貴社の希望価格は売出価格の中央値ですが、実際に成約する価格はここです」と具体的に示せます。
媒介戦略への活用方法
このデータを媒介戦略にどう活用するか。
高値媒介の依頼を断る根拠として使います。
売主が「周辺で3,500万円で出ている物件があるから、うちも同じくらいで」と希望する場合、同じ築年帯の成約価格を示し、「この価格帯の成約実績は2,300万円です。3,500万円で出すと◯ヶ月滞留し、最終的に2,000万円まで下げても売れ残る可能性があります」と説明します。
売主の多くは、ポータルに掲載されている価格が「売れていない価格」であることを知りません。このデータがあれば、市場の実態を数字で示せます。
AI査定の精度と売主への説明で扱ったAI査定と組み合わせれば、さらに説得力が増します。AI査定で算出された価格が成約価格の中央値と一致していることを示せば、売主は納得しやすくなります。
適正価格での媒介獲得率が上がります。
他社が高値で媒介を受けている案件でも、「他社の提案価格では売れません。当社はこのデータをもとに適正価格を提示します」と差別化できます。
売主にとって重要なのは「高値で契約すること」ではなく「確実に売れること」です。このデータで市場の実態を示せば、適正価格での媒介獲得につながります。
在庫月数から読む商品化リスク
在庫月数は、商品化(買取再販)の判断にも使えます。
在庫月数が多いエリアは、「買い取っても長期間売れ残る可能性がある」ことを示しています。
買取価格を決める際、売却期間が3ヶ月なら利益率を10%に設定できますが、売却期間が12ヶ月なら在庫金利・固定資産税・管理費の負担が利益を圧迫します。
在庫月数が10ヶ月を超えるエリアでは、買取価格を相場の60%以下に抑えるか、買取そのものを見送る判断が必要です。
東日本レインズの月例マーケットウォッチでは、首都圏の在庫件数と成約件数が毎月公表されています。自社の営業エリアについては、レインズで同様のデータを確認できます。
全国的には新築戸建ての在庫圧縮(値下げ処分)が進んだ中、一部の地方都市では在庫が高止まりしています。こうしたエリアでは中古・再販の価格競争が厳しく、商品化の出口を誤ると滞留します。
1人あたりの処理量を上げる投資を考える際も、在庫リスクを織り込んだ資金計画が前提です。
市場データは営業の武器
売出価格と成約価格の差は、単なる統計ではなく営業の武器です。
高値媒介を断るとき、適正価格を提案するとき、買取価格を説明するとき、このデータがあれば売主は納得します。
自社商圏版を作成する手間は、最初の1回だけです。一度作れば、四半期ごとに更新するだけで使い続けられます。
売主が本当に知りたいのは「いくらで売り出すか」ではなく「いくらで売れるか」です。そのためには、ポータルの掲載価格ではなく、成約価格を示す必要があります。
市場の実態を数字で示せる会社だけが、売主の信頼を得られます。
よくある質問
Q. なぜ売出価格と成約価格にこれほどの差が生まれるのですか
A. 売出価格は売主の希望を反映した「売りたい価格」であるのに対し、成約価格は買主が実際に購入を決断した「売れる価格」だからです。市場の需給と買主の支払い能力が成約価格を決めるため、高値で売り出しても買主が現れなければ値下げが必要になります。
Q. 築年帯別のギャップはどのように計算するのですか
A. レインズの売出物件と成約物件を築年で区切り、それぞれの平均価格を算出します。たとえば築31-45年の売出平均が2,000万円で成約平均が1,300万円なら、ギャップは▲35.0%となります。自社商圏のデータで同様の計算を行えば地域版が作れます。
Q. 売出中央と成約中央の築年差は何を意味するのですか
A. ポータルサイトに掲載されている物件(売出中)の築年中央値と、実際に成約した物件の築年中央値を比較すると、売出中の物件の方が明らかに古いという傾向が確認されます。これは築古の物件ほど売れ残り、新しい物件から成約していく構造を示しています。
Q. 高値媒介を断るときにこのデータをどう使えばよいですか
A. 売主が希望する価格と市場の成約価格の差を同じ築年帯・同じエリアのデータで示し、「この価格では◯ヶ月滞留し、最終的に▲◯%値下げして売れる可能性が高い」と説明します。自社レインズデータで作成した地域版があれば説得力が格段に上がります。
Q. 自社商圏版を作成する際の注意点は何ですか
A. レインズデータは会員限定のため外部公表できませんが、商談資料として売主に提示することは可能です。データは最新3ヶ月〜6ヶ月分を使い、サンプル数が少ない築年帯は隣接帯と統合して信頼性を確保してください。
相談窓口
売出価格と成約価格の差を自社商圏で分析し、適正価格での媒介獲得率を上げたい場合、データの抽出方法と商談資料の作成を支援できます。高値媒介を断る根拠として使える市場分析の提示方法は、貴社の商圏特性と売主層によって最適な見せ方が変わります。
生成AIを貴社の業務にどう組み込むかは、扱う物件・組織の規模・現在の業務フローによって最適解が変わります。株式会社MCOでは、不動産・建設業に特化したAI経営コンサルティングと実装代行、社内定着までの伴走を行っています。まずは公式LINEからお気軽にご相談ください。