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カチタス事案に学ぶ按分恣意性のリスク──買取再販の消費税で約20億円更正処分を受けた教訓

買取再販では仕入と売却で按分比率を都合よく使い分けると恣意的とみなされ更正される。固定資産税評価額按分で全件一貫させ、契約書に土地・建物・消費税額を明記する運用が鉄則。

買取再販の税務リスクを示す契約書と按分計算の書類

この記事の結論

買取再販では、仕入時に建物比率を大きく・売却時に小さくすると控除増と預かり税減の二重効果で利益が膨らむ。しかしこの使い分けは恣意的とみなされ、最大手が複数年度で多額の更正処分を受けた。固定資産税評価額按分で全件一貫させ、契約書に土地・建物・消費税額を明記する運用が、按分リスクを排除する実務上の鉄則となる。

買取再販業を手がける不動産会社にとって、消費税の土地・建物按分は利益と納税額を左右する最重要ポイントです。2023年に買取再販最大手が消費税の按分方法をめぐり税務当局に否認され、複数年度にわたる更正処分を受けた事案は、業界全体に按分の恣意性排除を迫る転機となりました。

この記事では、カチタス事案で何が起きたのか、なぜ否認されたのか、再販会社が按分リスクを排除するために守るべき実務上の鉄則を解説します。

カチタス事案の概要──年間数千戸の按分で積み上がった差額

株式会社カチタス(東証プライム上場)は、2023年5月、消費税の更正処分等の取消請求訴訟で東京地裁に請求棄却の判決を受けました。2024年5月の東京高裁でも控訴棄却、2025年5月には最高裁で上告不受理が決定し、国税側の主張が確定しています。

カチタスの適時開示資料によれば、消費税等差額として特別損失を計上する旨が公表されました。報道では、グループ全体で約20億円規模の更正処分を受けたとされています。

争点は、土地付き中古住宅を売買する際の土地と建物の内訳──つまり消費税の課税対象となる建物価格の合理性でした。

なぜ否認されたのか──リフォーム付加価値の扱いと非対称の利用

土地は非課税・建物は課税という大原則

消費税は土地にはかからず、建物にだけかかります。中古戸建ては契約上「総額いくら」で動きますが、消費税の世界では必ず土地と建物に分解(按分)して計算します。

視点 建物の扱い 理由
個人売主側 不課税(納税義務なし) マイホーム売却は事業ではない
宅建業者(買い手)側 課税仕入れ(控除できる) 事業として譲渡したと仮定すれば課税取引の性質
土地(両者共通) 非課税 法律で非課税と列挙

個人から仕入れる場合でも、宅建業者は建物分の消費税を仕入税額控除で取り戻せます。これは「売主側は不課税・買い手側は課税仕入れ」という非対称な扱いです。

按分の非対称を使い分けた構造

買取再販では、仕入と売却で按分比率の影響が正反対になります。

  • 仕入時: 建物比率が大きいほど控除が増えて有利
  • 売却時: 建物比率が小さいほど預かり消費税が減って有利

カチタス事案では、固定資産税評価額による按分を用いていたものの、国税は「リフォームによる付加価値の増加が建物価格に反映されていない」として否認しました。

具体的には、仕入時には固定資産税評価額で按分し建物比率を一定程度確保して控除を受け、売却時にもリフォーム後の建物価値上昇を反映せず建物比率を抑えることで預かり消費税を小さくする──この使い分けが恣意的とみなされたのです。

仕入と売却で按分を使い分けた場合の利益操作構造

仕入時

  • 建物比率を大きく算定
  • 仕入税額控除が増える
  • 税抜の実質仕入原価が下がる
  • 税抜利益が増える

売却時

  • 建物比率を小さく算定
  • 預かり消費税が減る
  • 納税見込みが減る
  • キャッシュが残る

この使い分けが恣意的とみなされ、カチタス事案では複数年度で約20億円の更正処分につながった

図1 仕入と売却で按分を使い分けた場合の利益操作構造

年間数千戸を扱う規模で、複数年度にわたりこの差が積み上がった結果、10億円単位の更正処分につながりました。

グレー領域と挙証責任の構造

法令は「合理的に区分」としか定めない

消費税法施行令45条3項は、土地・建物を一括譲渡した場合の対価の区分について「それぞれの時価の比によりあん分した金額」と定めていますが、「時価をどう算定するか」の具体的な方法は条文に書かれていません。

国税庁のタックスアンサーや基本通達では、固定資産税評価額による按分、不動産鑑定評価、建物の標準的な建築価額表などが例示されていますが、「これを使えば絶対に認められる」という保証はありません。

つまり按分は、法令上は一定の幅を持つグレー領域です。

評価額按分から離れるほど挙証責任が重くなる

固定資産税評価額按分は、行政が定めた客観的な数字を使うため、実務上の標準として広く認められています。しかし評価額と実態が著しく乖離するケースでは、より精緻な根拠が求められます。

カチタス事案が示したのは、評価額按分から離れるほど、その合理性を会社側が立証する責任が重くなるという構造です。特に仕入と売却で按分基準を使い分ける場合、税務調査で「なぜ仕入時には評価額を使い、売却時には別の基準を使ったのか」という説明を求められます。

評価額按分から離れるほど挙証責任が重くなる構造

固定資産税評価額按分
行政の客観的数値を使用。実務上の標準として広く認められる。挙証責任は軽い
建築価額表・不動産鑑定評価
評価額と実態が著しく乖離する場合に使用。代表者承認と根拠資料の保存が必須。挙証責任が重くなる
仕入と売却で基準を使い分け
恣意性のシグナルとして調査対象に。「有利だから」では通らない。否認リスクが高い

法令は「合理的に区分」としか定めないため、グレー領域が存在する。評価額按分から離れるほど、会社側が合理性を立証する責任が増す

図2 評価額按分から離れるほど挙証責任が重くなる構造

答えが「有利だから」では通りません。

再販会社が守るべき3つの鉄則

カチタス事案を踏まえ、買取再販を手がける不動産会社が按分リスクを排除するために守るべき実務上の鉄則は以下の3つです。

鉄則1: 固定資産税評価額按分で全件一貫させる

按分は利益と納税を動かすレバーです。だからこそ、全件・仕入売却ともに固定資産税評価額按分で一貫させます。

例外は、不動産鑑定評価を取得し代表者承認を得た場合のみとします。「この物件は評価額と実態が著しく乖離するため、鑑定評価を取得して按分する」という判断と承認の記録を残します。

「仕入はこの基準、売却は別の基準」という使い分けは、恣意性のシグナルとして真っ先に調査対象になります。

鉄則2: 再販契約書に土地・建物・消費税額を明記する

契約書に内訳がない場合、税務調査で「最も不利な按分」を適用されるリスクがあります。また社内で按分基準がバラバラになり、決算時に想定外の納税額が判明する原因にもなります。

再販時の売買契約書には、土地価格・建物価格・消費税額を必ず明記します。この3点セットが、按分の透明性を担保する最低限の証拠です。

鉄則3: 根拠資料を案件ファイルに保存する

按分の根拠となる固定資産税評価証明書、リフォーム工事請負契約書、不動産鑑定評価書(例外案件)を、案件ごとのファイルに保存します。

税務調査は数年後に来ます。担当者が退職していても、案件ファイルを開けば按分の根拠が分かる状態を維持することが、調査対応の負担を減らし、否認リスクを下げます。

按分の計算例──固定資産税評価額を使う場合

固定資産税評価額は税抜のため、建物評価額に1.1を掛けて税込換算してから按分比率を出します。

計算例(総額4,400万円、評価額: 土地1,650万円・建物500万円):

手順 計算 結果
1. 建物の税込換算 500万円 × 1.1 550万円
2. 建物按分比率 550万円 ÷ (1,650万円 + 550万円) 25%
3. 仕入建物(税込) 4,400万円 × 25% 1,100万円
3. 仕入土地 4,400万円 × 75% 3,300万円
4. 建物の消費税(控除見込) 1,100万円 × 10/110 100万円

この100万円が、申告時に納める消費税から差し引かれる額です。現金が振り込まれるのではなく、納税額が減る形で回収されます。

この計算を全件・仕入売却ともに同じ基準で回し、例外を作らないことが、按分リスクを排除する最も確実な方法です。

按分は税抜利益と納税見込みの二層管理で扱う

按分が変われば、税抜利益率も納税見込みも変わります。同じキャッシュフローでも、按分次第で税抜利益率が3〜5ポイント変わることがあります。

買付試算の段階で、「消費税回収額」と「納税見込み」の行を必ず入れます。利益は税抜で測り、消費税は資金繰りで管理する二層管理が、按分の影響を可視化し、意思決定の質を上げます。

詳しい試算方法は、買付試算シートで消費税納税見込みを先に出す──想定外の納税額判明を防ぐ設計で解説しています。

カチタス事案が業界に突きつけた問い

この事案は、買取再販業界全体に「按分の恣意性を排除せよ」という明確なメッセージを突きつけました。

最大手でさえ否認される。規模が大きいほど、年間数千戸×複数年度で差が増幅され、10億円単位の更正処分につながる。按分は「この物件だけ」の問題ではなく、全件に適用する基準を会社として決めているかが問われます。

「うちは小規模だから調査に来ない」という期待は危険です。按分の恣意性は規模に関わらず否認の対象になりますし、むしろ小規模ほど社内ルールが未整備で、調査時に説明できない状態に陥りやすいためです。

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よくある質問

Q. 固定資産税評価額で按分していれば絶対に否認されませんか?

A. 評価額按分は実務上の標準であり、多くの場合認められます。ただし物件の状況により、評価額と実態が著しく乖離する場合は不動産鑑定評価の取得を検討します。重要なのは全件で基準を一貫させ、例外には代表者承認と根拠資料を残すことです。

Q. リフォーム後に建物価値が上がるなら、どう按分すればよいのですか?

A. 仕入時は固定資産税評価額按分、売却時はリフォーム費を含む建築価額表や鑑定評価で建物比率を算定する方法が考えられますが、カチタス事案ではこの使い分け自体が恣意性として否認されました。私たちは全件・仕入売却ともに評価額按分で一貫させることを推奨しています。

Q. 按分比率を変えると利益はどう変わりますか?

A. 建物比率が大きいほど控除が増え、税抜の実質仕入原価が下がり、税抜利益が増えます。逆に納税見込みは減ります。同じキャッシュフローでも按分次第で税抜利益率が3〜5ポイント変わることがあります。だからこそ恣意性を排除するルールが必要です。

Q. 契約書に土地・建物の内訳を書かないとどうなりますか?

A. 内訳がない場合、税務調査で「最も不利な按分」を適用されるリスクがあります。また社内で按分基準がバラバラになり、決算時に想定外の納税額が判明する原因になります。契約書への明記は税務リスクと社内統制の両面で必須です。

Q. カチタス事案は最終的にどうなりましたか?

A. 2023年5月に東京地裁で請求棄却、2024年5月に東京高裁でも控訴棄却、2025年5月に最高裁で上告不受理となり、国税側の主張が確定しました。買取再販業界全体に按分の恣意性排除を求める明確なメッセージとなっています。

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消費税の按分ルール整備、買付試算シートへの消費税計算の組み込み、税務調査対応の記録体制構築など、買取再販の実務は税制と切り離せません。私たちは不動産会社の実務を熟知した上で、税理士・司法書士等の専門家と連携しながらAI活用による業務効率化を支援しています。

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AUTHOR

松本 龍樹

株式会社MCO 代表取締役/宅地建物取引士。代表プロフィールを見る