この記事の結論
月1回の訪問コンサルティングでは、前月の結果を見て「もう手遅れ」となる。目標予実・担当者別成績・期日ボード(媒介期限・引渡・次アクション)を1画面に集約した。初回セットアップはメニューからOAuth承認で完結する設計にした。デザインは業務システム調(絵文字なし)で統一し、freee連携で毎朝6時に自動更新される。経営者がExcelを開かなくても、ブラウザで進捗が見える仕組みに変えた。不動産会社のAI活用の実装例として、現場で動いている設計を公開する。
導入前の課題:Excelを開かないと進捗が見えない
不動産会社の経営者は忙しい。媒介の期限管理・資金繰り・担当者別の成績を把握するために、複数のExcelファイルを開いてシートを切り替え、数字を拾い直す時間を作らなければならない。
月1回のコンサルティング訪問では、前月の決算数値を見て「先月は赤字でしたね」と確認する。しかし、そこから何かを始めても、先月の赤字は取り戻せない。当月の途中で「今のペースで進むと月末にどうなるか」が見えなければ、打ち手を打つタイミングを逃す。
経営ダッシュボードとは、経営者が現状を把握するための情報を1画面に集約した管理画面である。リアルタイムで数字が更新され、Excelを開かなくても進捗が見える設計が必要になる。
何を変えたか:1画面に3つの軸を集約
関西の売買仲介会社(従業員12名)と中部地方の不動産会社(3事業・従業員18名)で、それぞれ異なる設計のダッシュボードを構築した。共通する設計思想は「1画面に集約すること」である。
| 軸 | 設計内容 | データ源 |
|---|---|---|
| 目標予実 | 月次目標と実績の差異・達成率を自動計算 | freee請求書(税抜額) |
| 担当者別成績 | 営業担当ごとの査定件数・媒介転換率・粗利 | 台帳シート(手入力) |
| 期日ボード | 媒介期限・引渡予定・次アクション期限 | 台帳シート(手入力) |
目標予実は、年間計画を月次に分解した数値と、請求書から自動集計した実績を並べる。担当者別成績は、営業担当が「今月あと何件受託すれば目標に届くか」を自分で計算しなくても分かる設計にした。
期日ボードは、「媒介期限が1週間以内に迫っている物件」「引渡予定が今月中の案件」を上に表示する。経営者が毎朝3分で「今日何をすべきか」を把握できる情報密度に調整した。
ダッシュボードの画面構成(1画面に集約する設計)
月次目標と実績の差異・達成率を自動計算。今月の進捗が一目で分かる
営業担当ごとの査定件数・媒介転換率・粗利を一覧表示
媒介期限・引渡予定・次アクション期限を期限が近い順に表示
経営者が毎朝3分で現状を把握できる情報密度に調整
初回セットアップはOAuth承認で完結
技術的なハードルを下げるため、初回セットアップは次の3ステップで完了する設計にした。
- スプレッドシートを開き、メニューから「初期セットアップ」を選ぶ
- Googleの承認ダイアログが表示されるので「許可する」をクリック
- freeeのログイン画面で認証し、API連携を許可する
OAuth2認証を使うことで、freeeのID・パスワードをスプレッドシートに入力する必要がなくなった。承認後は毎朝6時に自動で請求書・試算表・現金残高を取得し、スプレッドシートに転記する。
外部のダッシュボードツールを使わず、Google Apps Scriptで実装したため、月額費用はかからない。Googleスプレッドシートとfreeeの無料プランだけで動く設計である。
セットアップの流れ(OAuth承認で完結)
技術的な知識は不要で、経営者自身が3分で完了
デザイン哲学:業務システム調で信頼感を上げる
初期のバージョンでは、絵文字・グラデーション・丸みを帯びたカードを使った「AIっぽいデザイン」にした。しかし、現場の経営者から「チープに見える」「毎日見る気にならない」というフィードバックが返ってきた。
不動産会社の経営者は、業務システム(基幹システムや銀行の管理画面)に慣れている。深緑のヘッダー・罫線・淡色バッジという業務システム調のデザインに変更したところ、「これなら毎日開いてもいい」と評価が変わった。
クライアント向けのUIは、絵文字・グラデーション・汎用AIカード調を避け、業務システム調(深緑または紺のヘッダー・アンダーラインタブ・淡色バッジ)で統一する方針に決めた。2026年7月時点で、3社の実装事例がすべてこのデザインで運用されている。
freee連動の仕組み:毎朝6時の自動更新
freee APIは、請求書一覧・試算表・現金残高のエンドポイントを提供している。Google Apps Scriptから次の流れでデータを取得する。
- OAuth2トークンを使ってfreee APIにアクセス
- 請求書一覧から「今月の請求額(税抜)」を集計
- 試算表から「当月の経常利益」を取得
- 現金残高から「今日の手元現金」を取得
- スプレッドシートの指定セルに転記
Google Apps Scriptのトリガー機能を使い、毎朝6時に上記の処理を自動実行する設定にした。経営者がスプレッドシートを開いたとき、すでに最新の数字が反映されている状態を作る。
税抜額の計算は、freee請求書一覧APIに税抜額フィールドがない場合、税込÷1.1の概算で対応した。非課税の交通費が混在する請求書では数百円の誤差が出るが、パイプライン管理の用途では許容範囲と判断した。
他社が真似する条件:GAS+スプレッドシート+freee API
この設計を他社に展開するために必要な条件は次のとおりである。
- 会計ソフト: freee会計を使っていること(APIが公開されている)
- スプレッドシート: Googleアカウントを持っていること(無料プランで可)
- Google Apps Script: コードをコピーして貼り付けられる程度のITリテラシー(clasp pushの知識は不要)
弥生会計・マネーフォワード会計を使っている会社では、API仕様が異なるため、スクリプトの書き換えが必要になる。ただし、OAuth2の流れは共通しているため、コードの大部分は流用できる。Excelから脱却してシステム化する手順は、会計ソフトのAPI連携が最初のステップである。
Looker Studioを使えば、スプレッドシートのデータをグラフ化して見やすくできる。しかし、経営者が毎日見る画面は「数字の羅列」で十分であり、グラフ化は月次報告のときだけ使う設計にした。
失敗談:絵文字とグラデーションで現場が嫌がった
初期バージョンでは、「進捗80%達成!🎉」のような絵文字を使い、売上グラフにグラデーションをかけた「AIっぽいデザイン」にしていた。デモの段階では「きれいですね」と評価されたが、実際に運用を始めると「毎日見るには軽すぎる」という反応が返ってきた。
不動産会社の経営者は、業務システム(物件管理システムや基幹システム)を毎日使っている。そこに絵文字やグラデーションは存在しない。深緑のヘッダー・罫線・淡色バッジという業務システム調のデザインに変更したところ、「これなら信頼できる」と評価が変わった。
デザインの役割は「見やすくすること」ではなく「毎日開いてもらえる信頼感を作ること」である。現場の経営者が求めているのは、見た目の華やかさではなく、数字の正確さと更新の速さだった。
他の会社での実装例:自社の経営ハンドブックを実装
株式会社MCO(当社)では、経営ハンドブック準拠のダッシュボードを自社用に構築した。シート構成は次のとおりである。
| シート名 | 内容 | データ源 |
|---|---|---|
| ダッシュボード | 現金/ストック売上/当期累計/研究会/稼働 + 警告 | 集計のみ |
| KPI | 12KPIの目標・警告閾値・当月実測・判定 | 各シート自動+手入力2行 |
| 予実 | 第6期13ヶ月×計画vs実績・差異・達成率 | freee請求書 |
| 現金 | 日次残高の履歴+除外額→判定(400/500/600万線) | freee walletables |
| 試算表 | 月次単月PL(勘定科目9行×当会計期12ヶ月) | freee trial_pl |
「北極星+警告」型の設計にし、現金が400万円を切ったとき、稼働時間が月100時間を超えたとき、請求書の回収が遅延したときに、自動で警告が表示される。
ハンドブックの「毎朝の3分プロトコル」に「①現金確認」があるが、このダッシュボードを開くだけで済む設計にした。Phase 2(2026年7月時点)では、freee取込を番号キーのマージ方式に変更した。手入力した確度・商品・区分を保持する仕組みを追加し、安定収入源の確保と現金管理を両立する設計である。
まとめ
月1訪問コンサルでは先月の結果しか見えず、打ち手を打つタイミングを逃す。目標予実・担当者別成績・期日ボードを1画面に集約し、freee連携で毎朝6時に自動更新される設計にした。
初回セットアップはOAuth承認で完結し、技術的なハードルを下げた。デザインは業務システム調(絵文字なし)で統一し、現場の経営者が毎日開いてもらえる信頼感を作った。
Excelを開かなくても、ブラウザで進捗が見える仕組みに変えることで、経営者が自分で判断できる環境を整えた。AI導入の効果を可視化する診断ツールと組み合わせれば、導入前後の数字を比較して投資対効果を測定できる。
よくある質問
Q. なぜExcelではなくGoogleスプレッドシートで作るのか?
A. ExcelファイルはPCに保存され、開かなければ更新されない。Googleスプレッドシートはブラウザで開けば常に最新で、会計ソフトと自動連携できる。月1訪問のコンサルでは先月の結果しか見えないが、リアルタイムの数字が見えれば経営者が自分で判断できる。
Q. freee連動の仕組みはどうなっているのか?
A. freee APIから請求書・試算表・現金残高を取得し、スプレッドシートに自動転記する。OAuth2認証で初回のみ承認すれば、以後は毎朝6時に自動更新される設計。外部ツールを使わず、Google Apps Scriptで実装するため追加の月額費用はかからない。
Q. OAuth承認の手順はどうするのか?
A. スプレッドシートを開き、メニューから「初期セットアップ」を選ぶと、Googleの承認ダイアログが表示される。freeeのログイン画面で認証し「許可する」をクリックすれば完了。技術的な知識は不要で、経営者自身が3分で終わる。
Q. デザインはなぜ業務システム調にしたのか?
A. 絵文字やグラデーションを使った「AIっぽい」デザインは、現場の経営者から「チープに見える」と嫌がられた実例がある。深緑のヘッダー・罫線・淡色バッジという業務システム調にしたところ、信頼感が上がり毎日開いてもらえるようになった。
Q. モバイル対応はどうするのか?
A. Googleスプレッドシートはスマートフォンのアプリから開ける。ただし、1画面に情報を集約する設計のため、スマートフォンでは横スクロールが必要になる。経営者が外出先で確認するときはタブレットを推奨している。
相談窓口
経営ダッシュボードは、貴社の業務フロー・使っている会計ソフト・月次で見たい数字によって設計が変わります。freee以外の会計ソフトを使っている場合でも、API連携が可能であれば同じ仕組みを構築できます。
生成AIを貴社の業務にどう組み込むかは、扱う物件・組織の規模・現在の業務フローによって最適解が変わります。株式会社MCOでは、不動産・建設業に特化したAI経営コンサルティングと実装代行、社内定着までの伴走を行っています。まずは公式LINEからお気軽にご相談ください。